娘の遺体は凍っていた 旭川女子中学生イジメ凍死事件
文春オンライン特集班
出版社:文藝春秋
発売日:2021/09/10
同じ悲劇を二度と繰り返さないために……
今年3月、凍死体として発見された廣瀬爽彩さん。学校でのイジメを苦にした自殺。
その後、この事件は大々的に報じられ、それは海外でも取り上げられるほどだった。そこにメスを入れた文春オンラインによる取材手記。
正直、読んでいても胸糞悪くなる事件の真相である。
普段なら芸能人のゴシップをすっぱ抜くなど、良い意味でも悪い意味でも存在意義を示す文春だが、この事件に関しては下手に事を煽るようなことはなかった。本書を読めばその理由も自ずと分かるだろう。
この事件の内容は、あまりに現実離れしている感がある。"読書感想"としてこんな記事を書いているが、正直なところ、全く言葉が続かない。本書を読む上でも、ページを繰るのが恐ろしくて堪らなかった。多少敏感な方であれば、読むのを中途で投げ出したくなるほどだろう。そのくらい戦慄する内容だ。
ただ救われるのは、教育評論家である尾木ママによる提言と爽彩さんの母による手記だろう。なんとも力強い言葉が並んでいる。
私自身、旭川の近隣で生まれ育っているが、本書内で"Y"と称されている件の中学校では、昔からこの手の事件が多いことをよく耳にしていた。また旭川の教育委員会の杜撰さも……。
個人的に、いくら事件の真相を究明しようともまた同じような事件が起きてしまうだろうと考えている。だからこそ、この事件の加害者はじめ周囲にいた教員・管理職、教育委員会に至るまで、その責の徹底的な追求を求めたい。
先日、現・旭川市長が大阪・寝屋川市を視察訪問し、行政がいじめ問題にどう向き合うのか、その取り組みに対する詳細を見聞し再発防止策についての検討を進めることが報じられた。
だが、それだけで問題は解決するのだろうか? もっと根本的な部分にまで切り込まないと、何も変わらないのではないかと危惧している。
日本社会において「同調圧力」という言葉が歴史的にも現代的にももてはやされているが、それ以上に問題なのは「自己保身」と「事なかれ主義」に集約されるのではないだろうか? そこに踏み込んでこその改革・改善だと思う。
爽彩さんのご冥福を改めて祈るとともに、これからの「いじめ」に対する教育・行政の態度が改新されることを願ってやまない。
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同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか (講談社現代新書)