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【読書感想】鈴木董『文字世界で読む文明論 比較人類史七つの視点』

 
 文字世界で読む文明論 比較人類史七つの視点
 鈴木董
 出版社:講談社(講談社現代新書)
 発売日:2020/07/15

文字から見つめる人類の歴史

 従来ひとつの指標とされてきた「四大文明」を離れ、現今の五大文字圏を基軸とした新たな文化圏を構築し人類の歴史を再認識しようとする意欲作。本書は、文明・文化への明確な概念整理を示したうえで、科学や宗教、文学・思想・組織、果ては衣食住やグローバリゼーションなど広範なジャンルの比較検証を行っている。
 それはラテン文字を中心として「西欧キリスト圏」、ギリシャ・キリル文字を中心とした「東欧正教圏」、アラビア文字の「イスラム教圏」、サンスクリット(梵字)を中心とする「南・東南アジア圏」、そして漢字を中心とする「東アジア圏」の5つに集約される。
 各文字(言語)の発生や干渉の過程に文化文明の変遷を見出し、その変容が文化文明の発展にいかなる影響を与えてきたかの流れを模索している。この大変ユニークな着眼点は、読者の好奇心をくすぐるに余りある。
 しかし表題の文字(言語)と文明文化との関連自体は本書中では大変希薄だ。最終第七章ではそれなりの雰囲気を感じられるが、それ以外はほとんど高校世界史の復習に等しい。もちろん「文字(言語)」を基軸としている前提なので、高校世界史のそれとは趣が異なる。教科書の視点を離れるという意味で、一定の評価はできる。
 また著者も薄々気づいているようだが、こうしたカテゴライズである以上、日本の縄文時代などの無文字文明は暗黙の裡に除外されてしまう根本的欠陥を内包している。
 前著『文字と組織の世界史 新しい「比較文明史」のスケッチ』と併せ、教科書的な平坦な視点を排した立体的な「世界史」を学び直すには重宝しそうな一冊だ。基本的な世界史の知識だけで読みこなすことは十分可能である。

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 文字と組織の世界史 -新しい比較文明史のスケッチ
 

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