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【読書感想】植木雅俊『サンスクリット版縮訳 法華経 現代語訳』

2020年11月26日

 
 サンスクリット版縮訳 法華経 現代語訳
 植木雅俊

 出版社:KADOKAWA(角川ソフィア文庫)
 発売日:2018/07/24

 壮大にして荘厳な大乗仏教の世界。そこに描かれているものとは?

 日本でも天台宗や日蓮宗などで日々読誦される『法華経』。正式には『妙法蓮華経』と呼ばれるもので、代表的な大乗仏教経典のひとつである。
 本書はその『法華経』のサンスクリット原典を現代語訳し、更に仏教経典に散見する重複部分を省いた縮約版。
 著訳者である植木雅俊博士は理系出身の仏教学者で、ジャーナリストや作家としての側面も持ち、『法華経』『維摩経』を中心とした幅広い仏教思想研究を展開している。NHK「100分de名著」で『法華経』が取り上げられた際も、指南役として出演していたことは記憶に新しいところだ。
 
 大乗仏教において極めて重要な地位にある『法華経』だが、全28章にもおよぶ本文は一般読者が読もうにもなかなか敷居が高い。
 本書はベースとなっている博士の訳註本『梵漢和対照 現代語訳 法華経』からの抜粋で構成されているが、刮目すべきは実に詳細で丁寧に付されている解説だ。
 訳文自体はサンスクリット原典によるものなので、いくら流麗な訳出がされていても、どうしても日本的感覚では不自然さを感じてしまう部分が残ってしまい理解に躓く場合が多々ある。
 しかし、詳細な歴史と細微な分析がそこをうまく補完している。博士の今までの著作に目を通したことのある人なら、そのクオリティの高さは十二分に分かるだろう。
 また、『法華経』成立の背景に立てた仮説、この視点はかなり鋭く博士の参究の深さが窺える。

 なにはともあれ『法華経』研究の第一人者の手による訳註が文庫サイズ一冊に収まっているということは実に驚嘆に値することだし、今後『法華経』入門のスタンダードになることは間違いない。

 私もこのブログでサンスクリットのことをやっている(今年はほとんどできていない)が、以前訳出した『般若心経』以外の仏典に挑戦してみたい気持ちはある。もちろん『法華経』もその候補だ。そこで本書のようなものを読むと俄然やる気が起きるのだが、何せ長いのでサンスクリットテキストを開いては溜息をついて閉じるということを繰り返す羽目に陥ってしまう。情けないばかり。

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サンスクリット原典現代語訳 法華経(上)

サンスクリット原典現代語訳 法華経(下)

 ほんとうの法華経

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