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【読書感想】アン・ドル―ヤン『COSMOS いくつもの世界』

 
 COSMOS コスモス いくつもの世界
 アン・ドルーヤン 著 / 藤井留美 訳

 出版社:日経ナショナルジオグラフィック社
 発売日:2020/05/15

 人類がこれまで歩んできた歴史から見える未来の形

 1980年、世界中でベストセラーとなったカール・セーガン著『COSMOS』。
 あれから40年の時を経て、氏の愛妻が続編として記したのが本書である。

 正編と呼ぶべきカール・セーガンの『COSMOS』は、科学の力によって人類の未来、あるいは見果てぬ宇宙の深淵に迫ろうとする意欲作であった一方で、本書はどちらかというとこれまでの人類の歩みや科学・文化の歴史、宇宙や未来に対し人類が挑んできた足跡を辿るといった、どこか懐古的な性格を持っている。前作とは逆ベクトルの志向性なので、前作に感化されたことのある読者には物足りない内容かもしれない。
 しかし未来から過去、地球内部から宇宙の果てまで縦横無尽に駆け巡る内容は圧巻だ。
 本書が本題とするものは、日本では主に高校地学の範囲に関わるものだが、教科書のような無味乾燥な気質は微塵もない。むしろ物理や化学、生物といった分野にまで裾野を広げ、「理科」という大きな枠組みの中で、それぞれの分野がいかに密接な関係性を築き上げているかがよく分かる。
 加えて科学史という一面も助けになって、理数系に苦手意識を持っている人でも読みやすいだろう。
 なにより、ナショナルジオグラフィック社の書籍ゆえに、掲載されている写真や図版がどれも見惚れるほど美しいのも必見だ。

 最終章で語られる未来像に若干の古臭さを感じることは否めないが、ページを繰るごとに過去・現在・未来が一続きの地平線にまっすぐ伸びていく姿を垣間見させてくれる。それはカール・セーガン亡きあとも妻の愛情が変わることなく続いていることのように。

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