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【読書感想】岡本隆司『「中国」の形成 現代への展望』

 
 「中国」の形成 現代への展望
 岡本隆司

 出版社:岩波書店(岩波新書)
 発売日:2020/07/18
 

超大国・中国が目指している未来、その背景にある歴史とは?

 岩波新書『シリーズ 中国の歴史』の5巻目である本書は、「多元性と統一」というテーマのもと清代から現代中国までの変遷を辿る。
 中央集権的な政治体制を維持した明朝から、因習而治による各地域での自治の安定を目指す体制へシフトした清朝。少数派であった満州族がいかに多数派の漢民族を統治したか、またそれがどれほど危ういバランスの上で成立していたかが詳説されている。
 著者は清朝について「東アジアに平和を回復して繁栄をもたら」せたと称賛する一方で「多元を一元に転化させる力量はなかった」と指摘している。

 近年の中国の動向をみるにつけ、特にチベット、ウイグル、モンゴル諸族への弾圧は悲惨を極めている。
 いったい何を目指しているのか?
 その歴史的背景を投影してみると、本書のテーマたる「多元性と統一」このことへ行き当たる。清朝から現代中国まで連続性を保って影響している「多元性」。しかし清朝の目指した「多元共存」は失われ、「多元一体」が求められた。
 清朝末、梁啓超をはじめとした人物らにより西洋的な形での「中国」の一体化が求められはじめ、孫文、蒋介石、毛沢東という近代中国の系譜への道筋が開くが、その一体化は「満・漢・蒙・回・蔵」の5族を一つとする「中華民族」の統一というイデオロギーだった。その展開を清朝版図上で目指したのが中華民国、そして中国共産党による中華人民共和国だった。
 そして近年までほとんど独立した形をとっていた諸族をひとつにまとめようと中国共産党は「一つの中国」を掲げるが、そんなものは最初から存在しない「夢」であると著者は断じている。
 
  
 本書の大半のページは清朝史に割かれており、清朝崩壊後の経緯はほんのわずかだ。これは同じ岩波新書から「シリーズ 中国近現代史」が出ているのでそちらに譲っているのだろう。
 しかし「歴史は繰り返す」の言の如く、現代中国の行く末を見据えるにはやはりその歴史的背景を知る必要がある。本書はそのために必要十分のものを読む者に与えてくれる。

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