【読書感想】『三島由紀夫紀行文集』『スポーツ論集』

 
 三島由紀夫紀行文集
 佐藤秀明 編

 出版社:岩波書店(岩波文庫)
 発売日:2018/09/15
 
 
 三島由紀夫スポーツ論集

 佐藤秀明 編 
 出版社:岩波書店(岩波文庫)
 発売日:2019/5/17
 

現代日本文学の巨星の目に映った世界の風景

 戦後の日本文壇を代表する作家・三島由紀夫は、その小説や戯曲以外にもエッセイや紀行文などの文章も膨大に残している。
 『紀行文集』には、20代のヨーロッパ周遊をはじめ、晩年近くまでの足繁く旅行した際に書かれた紀行文が、『スポーツ論集』には自身とも関わりの深いボディビルや剣道などのスポーツ論、1964年の東京オリンピック観戦記などのスポーツ論が収録されている。

 あまりにも豊かな感受性と精緻無比な言葉で綴られた文章には圧巻の言葉しかない。
 ページを繰るたびに「なんて文章なんだろうか……」と嘆息ばかり漏れた。
 三島の作家人生の一大転機となった言われる欧米紀行『アポロの杯』などは言わずもがなだが、『東洋と西洋を結ぶ火』などのオリンピック観戦記などの書き口には驚嘆せずにはいられない。

 やはりこういう文章は三島由紀夫にしか書けないのだと改めて思うと同時に、批判するわけではないが、昨今の書き手の文章がいかに乱雑であるかを痛感させられる。なにも三島のような格調高い文体を良しとしているわけではないが、「読むだけでお腹いっぱい」と感じられる重厚にして濃厚な文章に、最近めっきり出会わなくなったと感じているだけだ。
 なにはともあれ、三島由紀夫という文豪の作は将来必ず岩波文庫に収録されるであろうことは誰しも疑わないところだったとはいえ、こうして実際収録されてみると、時の経過を否応なく感じさせられてしまう。もちろん谷川俊太郎先生などご存命の方の作も岩波文庫に収録されていたりするが、やはり岩波文庫といえば”古典名著”の宝庫という印象が強いだけに、三島の作もそれに列せられた感がある。
 たしかに呼称や表現に今ではまったく使われなくなっているものも多く、そうした言葉に出会うと多少の古さを感じざるを得ない。だが、それが三島由紀夫をという名文家が生きた時代なのだ。
 「目の保養」という言葉があるが、読書家にとっての「目の保養」には最適の2冊。

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 荒野より – 新装版 (中公文庫)

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