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【読書感想】『ジョン・ケージ著作選』

 
 ジョン・ケージ著作選
 ジョン ケージ 著  小沼純一 編

 出版社:筑摩書房(ちくま学芸文庫)
 発売日:2009/05/11
 

音楽の作り方・聞き方までも変えた不世出の現代音楽家が紡ぐ"言葉"の思索

 
 演奏家が一切楽器を鳴らさない『4分33秒』を作曲するなど、20世紀を代表する音楽家ジョン・ケージ。
 彼は音楽家としての素顔のほかに、思想家・詩人、果てはキノコ研究家としての一面を持っていた。
 それゆえに、彼は音楽界にとどまらず芸術分野全般に多大なる影響を残した。

 そのジョン・ケージの"言葉による"パフォーマンスを一冊にまとめたというのが本書。
 音楽やキノコ、偏愛した『フィネガンズ・ウェイク』にまつわるものまで、実に実験的・挑戦的な文章が怒涛の如く溢れかえっている。

 正直なところ、一読だけではその意をくみ取れない部分が多い。「これ、原書で読んだ方がわかりやすいパターンかな?」と思えてくる。
 だが、それぞれの文章を訳出した翻訳者らの緻密な言葉選びのおかげで、本書がいかに巧みに構成されているか、読み進めていくうちに感じ取ることができる。
 その一方で、原書で採用されていた奇抜な組版やアクロバティックな文字の折り込みなど、一部省略せざるを得ない事態にも陥っているが、それは仕方ないことだろう。

 本書を読んでジョン・ケージの何が理解できるかというと、わたし自身は結局なにも分からなかったと告白せざるを得ない。
 だが読む人によっては、文脈中のジョン・ケージを通じて新たな視座への可能性を見出せるかもしれない。
 それもまた、彼の語る"偶然性"の賜物だろう。
 古くは1950年代に書かれたものもあるが、あまりにも挑戦的で今読んでも新鮮さを失っていない書き口には、読み返すたびに驚かされる。

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 ユリイカ2012年10月号 特集=ジョン・ケージ_鳴り続ける〈音) 生誕100年/没後20年

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