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【読書感想】劉慈欣『三体』

 
 三体
 劉 慈欣 / 大森 望,光吉さくら,ワンチャイ 訳 / 立原透耶 監修

 出版社:早川書房
 発売日:2019/07/04

次世代へつながるSF界の新巨星

 中国での初版以降話題を呼び、英訳版の刊行、そしてSF界の最高賞ヒューゴー賞を受賞するに至った本作品。
 日本語訳刊行以降は、各界の著名人からの絶賛を受け続けている。
 文化大革命を背景に壮大に広がるストーリーは、圧倒的な想像力と底知れない知識量に裏打ちされて最早なんと称していいか分からないほどだ。

 私自身、古今東西を問わずいろんな書籍を多読乱読してきた自負もあるが、正直本作には感服以外の言葉が見当たらなかった。
 中国での話題沸騰時期にその噂を遠回しに聞いていただけに、日本語訳の刊行を待たずに原書で読もうかと思っていた矢先、邦訳がやっと出た。
 一読して圧倒され、再読してなお圧倒されてしまった事実を否定しえない。

 ネタバレのこともあるので詳しい筋書きはここでは語れないが、とにかく圧巻の一言に尽きない。これで三部作の第一部なのかと呆れてしまうくらいの圧倒力なのだ。
 多少専門用語がすぎるので、人によっては読みづらさを感じる面もあるかもしれないが、加速度的に進むストーリーと科学的レトリックはそれさえも凌駕するほど繊細かつ巧妙に仕組まれている。

 その陰には、作者自身が本作と同等の時代背景を生きてきたことに由来する、ある種の信憑性があるのかもしれない。
 またエンジニアと作家の二足の草鞋を履くことも、本作成立には多いに寄与するところがあると思う。

 自分自身でも不思議に思ってしまうほど、この作品には驚きと衝撃を感じずにはいられなかった。

 
 私が幼少時、韓国などもふくめ、中国は「近くて遠い国」という感覚のもと、未だ現代社会に適応しえない文化の象徴のような風を感じていた。
 しかし昨今の経済成長はじめ、大国としての経済的発展を目の当たりにし、かつその人口の多さが故に、小説を含めた文化的活動を担う人材の豊富さを想像せずにいられない。その広大な裾野の頂きをけん引する者が、どれほど洗練されていることか。
 莫言や閻連科といった最近の名だたる作家の功績を見るにつけても、その土壌がいかに成熟しているか、想像に難くないところだ。

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