【読書感想】角岡伸彦『ノンフィクションにだまされるな!』

 
 ノンフィクションにだまされるな!
  百田尚樹『殉愛』上原善広『路地の子』のウソ
 角岡伸彦

 出版社:にんげん出版(モナド新書)
 発売日;2019/12/26

ノンフィクションとはいかに書かれどうあるべきか、話題作を真っ向から徹底批判する痛快書

 数年前に話題となったノンフィクション作品、百田尚樹『殉愛』上原善広『路地の子』の二作品。
 『殉愛』に関する裁判沙汰は、テレビなどで大々的に取り上げられたことは今でも記憶に新しい。

 この二作品の虚実を検証し、ノンフィクションとはなにかを問い直している本書。裁判の傍聴や取材手法の検証、徹底した史実検証のほか、事実が捻じ曲げられる心理的背景にまで言及し、上記二作品の問題点を洗い出している。
 その書き口には、取材することの困難さと意義、そしてそれがいかに重要であるかがにじみ出ており、ある意味”ノンフィクション”作品を書くための教科書といっても過言ではないほどだ。
 巻末にはノンフィクションライターの西岡研介氏との対談も収められているが、その熾烈極まりない徹底批判ぶりには痛快さを通り越して絶句してしまう。

 ノンフィクション作品に限らず、昨今は歴史書などでも同等の低質な著作が増えているように思う。そしてあろうことか、それが飛ぶように売れているというのだから閉口してしまう。
 もちろん”分かりやすい”ことは大切だ。そしてひとはそういうものに飛びつきやすい。また”話題性”や”意外性”などセンセーショナルであればあるほど、耳目を集めやすい。
 なにより本が売れなければそれを出している出版社はもちろん、著作者も困ってしまう。
 だからといって売れる本を出すために、史実を捻じ曲げたり、取材や調査・検証を怠ったりすることは許されない。

 この問題は著作者ばかりではなく、担当する編集や出版社の姿勢にも大いに責任があると思う。
 本書でも少し指摘されているが、特に編集者は世に出る前の著作物の最初の批判者であるべきで、著作者と読者をつなぐ要だ。その編集者の実力ないし意識の低下は殊に問題である。
 出版界低迷の一因は、読者の本離れではなく、むしろこうした根源的な部分でのレベル低下によるものだと思う。つまり出版会全体が自らの首を絞めつけた結果だ。

 ちょっと個人的な思い出話を……。
 わたし自身が書き手として駆け出しの頃、世間にインターネットが広がり始めていたが、日本語のページは今とは比べものにならないほど少なかった。
 だから情報収集するにも現在のようにネットで検索するより、図書館や資料館に足を運ぶ方が量も質も確実だった。その頃の出版社や特に新聞社の資料室などには「えっ、こんなのあるの!?」という目を見張るような資料が山のようにあった。プレミアム感というか、とても特別な印象を受け「さすが大手は格が違うな」などと感じていた。
 その後、実家の家業を継ぎ物書きからは離れたが、なんやかんやあって数年前から再び書き手としての活動を再開した。
 そんなある日、とある紙面の依頼を受けたのだが、たまたま上京する予定もあって編集者と打ち合わせる約束をした。……が、当日やりとりした末、「今回の資料ですが」と手渡された紙の束すべてがWikipediaのページをプリントアウトしたものだったのには、驚きを通り越して呆れるしかなかった。
 かねがね編集者のレベル急落の噂は耳にしていたが、正直ここまでとは……。そもそもそんな資料なら自分でも調べられる話しなワケで。

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殉愛

路地の子

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