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【読書感想】小林昌平『その悩み、哲学者がすでに答えを出しています』

 
 その悩み、哲学者がすでに答えを出しています
 小林昌平

 出版社:文響社
 2018/04/27

 
 

哲学的思考という一見すると難解極まりない代物が、実は自分たちの身近な生活に直結しうるものだとわかる哲学入門書

 「自分を他人と比べて落ちこんでしまう」「嫌いな上司がいる」「死ぬのが怖い」……。
 現代人が抱えるさまざまな問題や悩み事を切り口に、古今東西の哲学者・宗教家の思想をたどる哲学の入門書。
 本来なら多くの人に毛嫌いされそうな小難しい内容を簡潔にわかりやすくまとめてくれている。

 冒頭で著者は、古バビロニア時代に書かれた粘土板を紹介し、「紀元前に生きた人も、現代人の私たちと同じようなことを望み、同じようなことで悩んでいた」と指摘しているが、技術がいくら発展しても人間自身の中身は数千年を経てもさほど進歩していないことがよくわかる。
 それは同時に、長い年月の中で同じような悩みや問題を抱えた多くの賢人らが、それらの諸問題を克服するためにさまざまな思考をめぐらせてきたことでもある。
 
 一つひとつの問題に対して割かれているページは少ないが、それぞれの哲学者の略歴や核となる考えはじめ、著者なりの解釈への言及もあり読んでいて飽きが来ない。
 また補足事項にもかなり気が配られていて、各項目について関連するオススメ本も紹介されており、至れり尽くせりの感がある。
 ところどころで半ばこじつけのような論の展開が見られるが、それは本書の意図とは別の問題だと思う。
 
 実際本書をよんだところで、取り上げられている悩みが解決にいたるわけではないことは承知してほしい。
 それぞれの哲学者が導き出した答えというのは、あくまで彼らの答えであって、決して万事普遍的な解答ではない。
 もちろん、賢人たる彼らが悩みぬき、綿密な思考の果てに絞り出したものなのだから、その言葉はあまりに力強く、そう簡単に揺らぐものではないのは確かだ。
 だが、彼らもひとりの人間であり、悩み苦しむ現代人たるわれわれもそれぞれがひとりの人間なのだから、その本当の答えは各人自身の中にしかない。
 その答えを導くため、先人の足跡にあたることは大変有効だ。そしてそこではじめて大きな価値を持つのだと思う。
 本書はその手掛かりをさぐるために、とても気軽に手に取れる良書である。

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