住まいの解剖図鑑
増田 奏
出版社:エクスナレッジ
発売日:2009/11/20
建築士の頭の中。心地よい住まいを実現するための「平面のトポロジー」
二十歳そこそこの頃、飲み屋で一緒になった建築デザイナーに「建築ってのは法律に雁字搦めにされてるようなもんなんだ」といった話しを滔々と聞かされながらお酒を飲んでいたことがあった。
「法律に雁字搦め」にされているという点については、当時世間を賑わせていた耐震偽装の問題等を考えるにつけてすぐに合点がいった。
一方、テレビでたびたびリフォームものの番組を観るたび「機能性」だとか「動線」といった言葉に触れ、建築設計をすることはすなわち、見た目以上になにか法則性に則る部分が非常に多いのではないかと思うようになった。法律もその法則性のひとつなのだろうと。
本書はそんな私の疑問に素直に答えてくれた。
副題に「心地よい住宅を設計する仕組み」とあるように、人間の習性や心理、自然の流れをウマく利用しつつ人間がいかに心安らかに日々の暮らしを営めるのか、窓一つ、屋根ひとつ、壁や洗濯機置き場に至るまで、実によく考えられたうえで建物が設計されていることがよくわかる。
一見すると不必要に思うデッパリや溝、まったく規則性を感じられないドアの開閉方向など、どれひとつとっても「平面のトポロジー」よろしくすべて計算され尽くされていたことには驚きだ。考えてみれば至極当然のこととはいえ、階段の位置や傾斜の具合によって部屋の面積が変わってくるなど、一般人にとっては目からウロコの建築知識もふんだんにある。
本書はそんな住宅設計の基本と、各所・各設備の役割――どうしてそのように配置されているのか、どうしてその大きさなのかに至るまで、徹底的にわかりやすく紐解いてくれている。
多少の専門用語も出てくるが、本文の意味を見失うほどのものではない。
あくまで住宅設計をする上で建築家がどのような視点・手法を持っているかという観点から書かれた本なので、リフォームや新築の間取りの参考にという向きではない。
とはいえ多少建造物に関心や興味がそそられる読者にとっては格好の一冊となっている。図解イラストも豊富なので読んでも見ても楽しい。
要所要所で挿入されているコラムでは、著者のエピソードなども交えて設計の現場を垣間見れるのも興味深いところだ。
本書は、自分の住まう家・建物の見方への変化以上に、生活そのものも変えてくれるほどの不思議なエネルギーを持っている。
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Casa BRUTUS特別編集 最新版 建築家ル・コルビュジエの教科書。