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【読書感想】おかざき真里『かしましめし』

 
 かしましめし
 おかざき真里

 出版社:祥伝社
 発売日:2017/09/08

アラサー女二人とひとりの男。実生活で負った傷を癒してくれるのはおいしいご飯。

 美大出身の仲良し三人組が織り成すご飯系マンガだが、一見普通に見えても三者三様に一筋縄ではいかない事情を抱えているヒューマンドラマともいえるこの作品。
 なぜタイトルが『かしましめし』なのかは読んで推してはかるべしという感じだが、設定もストーリーもどれもが素直でやさしい印象を受ける。

 多少ネタバレになるが、本作品の中心を担う三人は会社や恋愛はじめ社会生活でも私生活でも悩み多く、また不器用で素直に馴染めないというある意味現代的な悩みをもっている。そんな三人が再開したきっかけが共通の学友の死だった点は、本作品の底流を担う鍵だと思う。
 "死"とその対極として位置づけされる"生"。その根源を支えるのは紛れもなく"食"だ。

 仲が良いとはいえ三人それぞれ表立っては口にできない悩みや苦しみを抱えている一方、一度集まればおいしい料理とお酒でその傷を癒す。
 ここで主題の"めし"が大変印象深く描き出されているのが本作の真骨頂だろう。
 日常の悩みや苦しみを一切感じさせないほど、三人は満面の笑みで食事をするのだ。その筆致がまたなんとも幸せそうに描かれているので、読んでいる側までお腹が空いてきてしまう。また、ご飯系マンガにありがちな個性的な創作料理やレア物食材ではなく、ありふれた家庭料理に若干のアレンジを加えた程度の素朴な調理がなお一層食欲をそそる。
 そうして幸せいっぱい料理を噛みしめてお腹を満たした後で放たれる言葉には、妙な重みがある。
 「オイシイ タノシイ オモロイのが大事でな "生き方"とかって総括は せんでええねんで」
 噛めば噛むほど味わい深い料理と同様、読めば読むほど心に沁みる作品。

 巷では方々で話題を呼んでいたようだが、正直もっと早く手に取り読んでおくべきだったと今更ながらに痛感している。
 

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