ウイグル人に何が起きているのか
民族迫害の起源と現在
福島香織
出版社:PHP研究所(PHP新書)
発売日:2019/06/19
日本人がウイグル問題を考える上での必読入門書。
中国領内新疆ウイグル自治区。
腐敗しきった日本のメディアでは大きく取り上げられることは少ないが、近年、国際的な非難の集中砲火を浴びている問題のひとつが、このウイグル自治区に対する中国共産党からの弾圧問題。
ネット上に上がっている海外メディアなどの報告で少なからず現状を認識していたつもりではあったが、本書を読んでみると果たしてこんなことが21世紀に起こっているのかと疑いたくなるような現状に打ちのめされてしまった。
本書は3章に分けられて構成されているが、序章から第1章までで総ページの半分以上が費やされている。
その序章から第1章部分では、著者が現地を訪れ調査・見聞した事例はじめ、衝撃的な各種レポート、亡命者たちの証言など、にわかには信じがたいまでのウイグルの現状が報告されている。
中国共産党にとってウイグル人は、"いつも微笑みをたたえ""清く正しく""犯罪者さえいない完璧な街の住人"である。そのことを「民族浄化」という謳い文句のもとに「強制」しているという事実。
ではその「強制」に従わなかった場合は……? 正直、読んでいて気分が悪くなるような実態が克明に記録されている。
もっとも、中央集権的な国家がその地方をすべからく統括しようとするなら、どうしても強行的な施策がとられるだろうことは容易に想像できる。また近年急速な経済成長によって経済大国として名乗りを挙げた中国だが、その発展を広げるためにヨーロッパへとつながる経済圏構想「一帯一路」を掲げ推進しようとしている中で、そこに水を差すような事案を排除しようと動こうとするのは当然といえば当然かもしれない。しかしその姿勢は、多くの少数民族との共存共栄を謳いながら、共産党の一党独裁を確実に遂行させるという意思が感じられてならない。
とはいえ、その目的のために人権を無視した行動が許されるのだろうか?
各施設への出入り口に設けられた金属探知ゲート、街中に設置された監視カメラ、"再教育"施設で行われていること……現代技術と古典的な手法を駆使した狡猾で姑息な手段の数々。
ウイグル人の文化や宗教、生活そのものを否定し中国的なものへと同化させているその実態は、かつて中国で起こった文化大革命の再来といっても過言ではないだろう。
ウイグルの母 ラビア・カーディル自伝 中国に一番憎まれている女性 |
ニューズウィーク日本版 2018年10/23号 日本人がまだ知らないウイグル弾圧 |
2000年代のチベット問題でもそうだったが、こうした問題は中国国内の他の民族はじめ周辺諸国にとっても他人事ではない。
現に、ウイグル人と同じイスラム教を信奉する国々がこの問題に対し強く非難の声をあげないのはなぜなのか? その背景を探ってみると浮かび上がってくるのは、国家間の思惑や力関係といった実に生々しい理由が立ち上ってくる。そしてその状況がなぜ生まれてきたのか、そこまで辿った先に見えてくるのは、現在の世界の国々が互いにどのような背景をもって成立してきたかという歴史の問題にまで帰着する。
マークトゥエインの言を借りれば「歴史は繰り返さないが韻を踏む」そのもので、こうした民族を巡る問題は、現在の米中による覇権争いの行方や国際世論の変化と相俟って、自分たちの未来をも予想させるものだと考えておくべきだろう。
一九八四年[新訳版] |
真昼の暗黒 |