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【読書感想】高野悦子『二十歳の原点』

2018年06月27日

   

 高校の時、担任や教科担当ではなかったけれど比較的気の合う先生がいた。
 ある日他愛もないことを話していた折になんの前触れもなく「君みたいな人の日記だから読んでみるといい」と言われた。同時にその前段となる『ノート』『序章』があることも教えてくれたが、当時最寄りの大型書店で手に入ったのは新潮文庫版の『二十歳の原点』のみだった。他の2冊は絶版の状態だった。

 学生紛争がこの国で一番盛んだった頃、一人の女学生が自殺した。当時立命館大学に通っていた高野悦子、その人だ。彼女が一体何に悩み不安を抱えていたのか? 社会への反抗心、学生運動への共感、恋への憧れ、孤独感……。「独りであること、未熟であること、これがわたしの二十歳の原点」という二十歳の誕生日の数日後に書き残した言葉には、そんな彼女の生き様が見て取れる。
 初版が刊行されてから半世紀近く経つが、時代も常識もすっかり変わってしまったとはいえ、彼女の書き残した言葉は今を生きる私たちにも十分響いてくる。それは、この本が一人の人間であってもこれほどまでに葛藤しもがくことができることを伝えてくれているからだろう。単純に彼女の自殺の理由を見つけるのは容易い。だが、実際のそれはあまりに複雑すぎる。だからこそ、時代を問わず同じように自己と向き合った者に多くの共感をあたえるのだろう。
 私自身、彼女が命を絶った歳から10以上も上になってしまったが、今読み直しても、年齢を重ねたからこそ理解・共感できる言葉によく出会う。それだけ自分もまた未熟なままなのかもしれない。
 
 ちなみに『ノート』と『序章』に関して、後にそれぞれ古本市のようなところで文庫本を手に入れ読むことができた。『二十歳の原点』自体も刊行当時の単行本を古本市で見つけたのだが、後に早稲田の某古書店で三冊揃い帯付初版というものを見かけた。まじまじと見入っていると店主に「今の時代(2000年代初頭)にこの本を知ってるとは珍しい」と言われ、ついつい話し込んでいるうちに買う破目になったことは良い思い出だ。今でもこの三冊は私の書斎のすぐ手に届く本棚に並んでいる。


二十歳の原点ノート [新装版]
十四歳から十七歳の日記

二十歳の原点序章 [新装版]

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