自分の中に毒を持て<新装版>
岡本太郎
出版社:青春出版社(青春文庫)
発売日:2017/12/09
忍耐と勇気。岡本太郎の原点。
言わずと知れた芸術家・岡本太郎の名著。岡本太郎といえば、「太陽の塔」に代表される奇抜な作品群や、「芸術は爆発だ!」「なんだ、これは!」といった大胆で印象的な発言などは今でも耳目を集める。また昨今「タローマン」などの放送もあり、未だに根強い人気と絶大な影響力を放つ異才の芸術家であることは言うまでもない。
そんな岡本自身の生き様と人生哲学が、さまざまな経験やエピソードを交え熱く語られている本書。起業家などの間でも愛読者が多い自己啓発本である。
ページを繰ればすぐに、耳が痛くなるような指摘やダメ出しとも感じる鋭い意見が並ぶ。「そういう考え方はあなただからできるんでしょ?」あるいは「自分はそんなことができるほど強くない」と、つい反発したくなるような考え方が口角泡を飛ばす勢いで書かれている。だがその反発を予想しているかのように、著者はそれが何故ダメなのか、その根本にはなにがあるのか、そしてどうしたらいいのかを激するかの如く喝破してくる。映像で見る著者の言動そのままに、どの意見もずしりと重い。
だが一方で意外な岡本の一面も見えてくる。それは、時代の寵児として、また歴史に名を刻む芸術家としての岡本太郎であっても、どこにでもいるひとりの普通の人間だったことだ。インタビューやCM、テレビ番組など残された映像からもその自信満々な姿は容易に感じられるが、自身の心の中は常に不安に満ち、苦悩と焦燥に苛まれていた。そこにあって、著者自身はどうしたか、どう考えたか、そしてどう突き抜けたか、若き日の思い出話しなどを通して語られる。そこには読者と何も変わらない同じ人間としての弱さを垣間見ることができる。
印象的なのは、著者の言う「芸術」とは人生つまり生きることそのもので、「爆発」とは「全身全霊が宇宙に向かってパーッとひらく」ことという考え方だ。「芸術は爆発だ」という言葉は、すなわち生きることは常にその瞬間瞬間に無償・無目的に爆発しつづけること、それが命の本当のあり方だと著者は語る。今この瞬間に全身全霊をこめ生き抜くこと、そのために必要なのが弱く後ろ向きで駄目だと感じる自分自身を認め、周りの人の価値観ではなく自分がどうしたいのかどう生きたいかを徹底的に考え抜き、常識を捨て「自分の中に毒を持つ」ことなのだ。
私事だが、今夏、身辺的に大きな変化があって精神的に随分参っていた。そんな中で読み返した一冊。かなり励まされたことは白状しよう。世の中にはごまんと自己啓発本が流布しているが、本書はその中でも時代や状況に依らず多くの人の心を打つものがある。冒頭から読み進めるのもいいが、気に入った章や節だけ読み拾っても精神的に得られるものがあると思う。