しらふで生きる 大酒飲みの決断
町田康
出版社:幻冬舎(幻冬舎文庫)
発売日:2019/11/06
(元)酒豪の断酒哲学
大伴旅人を理想とし30年間一日も休まずに酒を飲み続けてきた小説家・町田康。
そんな彼が、ある日突然「酒を辞めよう」という思考が降ってきたことで思い至った断酒。
そこからの自信の内面的葛藤を赤裸々に綴った本書は、エッセイとも小説とも、はたまた"断酒"哲学書とも読める。
まず著者は、酒飲みにとって断酒は"狂気"そのものであるという。
確かに酒飲みにとって飲酒する習慣が正常なので、それを止めること自体"狂気の思考"そのものに他ならない。
著者は現在その狂気と正常の間を揺れ動いており、辛うじて狂気が勝っていると語る。
また飲酒は「人生の負債」とも喝破し、それはさながら多重債務者のようだとも例えている。
飲酒することで得る一時的な快楽は、知識や経験や思い出といった人生への蓄積とはならず、酔いがさめれば何一つ残らない。
また飲酒を続けた結果引き起こされるさまざまな体調不良や病気などは、利息そのものだと言うのである。
私ももともとかなり飲む方ではあったが基本家では飲まなくなったので、こうした指摘は確かにその通りと合点がいった。
なにより後半の方で断酒の効能として「脳がいい感じ」といった点など、共感せざるを得ない。
「断酒」というワンテーマで主観をさまざまに巡らし、極めつけにいつもの町田節が炸裂しているので、人によっては大変読みづらく、あるいは煙に巻かれたような気になるかもしれない。その点は注意が必要な一冊ではあるが、酒を止めたいと思っている人にとっては傍らにあって欲しい一冊ともいえる。
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