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【読書感想】ズミクニ『統合失調症になった話(※理解ある彼君はいません) 推しと福祉に救われて社会復帰するまでの劇的1400日』

2024年10月29日


 統合失調症になった話(※理解ある彼君はいません) 推しと福祉に救われて社会復帰するまでの劇的1400日
 ズミクニ 著 / 岩波明 監修
 出版社:KADOKAWA
 発売日:2023/02/22

支えとなるものの大切さと温かさ

 タイトル通り、著者が統合失調症を発症して後、措置入院から社会復帰するまでのコミックエッセイ。当事者でしか描けない心理的描写含め、壮絶な体験の記録だ。しかし愛らしくコミカルな描線と小気味いいテンポのコマ割りで、読んでいても不思議と悲惨な気持ちにならないのは救いだ。
 冒頭「給料トラブルが原因で無職」だったと断っているが、唐突に陽性症状が発生し措置入院となった時点からの書き出しのため、なにが原因で統合失調症を発症したかは描かれていない。多分あえて描きたくなかったのかもしれないので、読者が深追いしても詮方ないことだ。むしろ本書で追うべきは、再発と入退院を繰り返しながらも、周囲の人々の支えや優しさに触れる中で冷静に自分の立ち位置と将来に向き合う姿だろう。そして「推し」がいることの大切さ、これは同様の病を患っている人に限らず、現代社会においては重要な意味を持っているだろう。
 途中で監修の先生と作者の対談やコラムが挿入されているが、読むにつけてもこの「統合失調症」という病は実に身近なものであることが感じられる。
 
 それはそうと、著者が見た幻覚の一つとして歯車が現れる描写があるが、そこで思い出されたのは芥川龍之介の『歯車』だ。
 私が以前うつ病で長期入院した際、主治医の一人がよく「芥川龍之介の『歯車』、あの作品は統合失調症を発症しかかっている状態そのもの」だと言っていたが、精神疾患の症例としてはメジャーなものなのかもしれない。ちなみにこの芥川が目にしたという歯車はいわゆる「閃輝暗点(せんきあんてん)」だと言われている。強いストレスを受けたことなどが原因で現れる片頭痛の一種で、一般的には脳疾患に分類されるようだが、強いストレスなどは精神疾患の原因でもあるのでやはり切っても切り離せないものがあるのだろう。
 

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