感想・レビュー

【読書感想】頭木弘樹・川野一宇・根田知世已・NHK深夜便『絶望名言』《文庫版》

 
 絶望名言《文庫版》
 頭木弘樹・川野一宇・根田知世已・NHKラジオ深夜便制作班

 出版社:飛鳥新社
 発売日:2023/04/25

今日を生きるためのネガティブさ

 NHK「ラジオ深夜便」の人気コーナー「絶望名言」。その放送内容が単行本化されたのが2018年だが、今回待望の文庫化がされた。
 タイトルだけからするとなんともネガティブな印象しか受けないが、実際その通りだから仕方がない。「無能、あらゆる点で、しかも完璧に」「明けない夜もある」「人生は地獄よりも地獄的だ」……。なんということだろう、歴史に名を遺す稀代の偉人たちでさえこう嘆くのだ。市井の一員たるしがない自分たちが絶望的な状況に陥った時、果たしてそこに救われる道筋を示すべく言葉など到底用意されているはずもない、そう感じざるを得ない気持ちにさせられる。
 だが本書のページを繰れば、「絶望」にこそ全ての出発点、解決の糸口があるのではないか、そのことに気づかされる。絶望とまでいかなくとも、そもそも落ち込んだりしょげかえっている時に、希望に満ち溢れた言葉や励ましの言葉をかけられても、まったく心に響かなかったという経験をした人は多いだろう。そうした時こそ、本書で取り上げられているような悲壮感いっぱいの言葉の方がむしろ心に染みたりする。
 番組を進行する文学紹介者・頭木弘樹氏とアナウンサー・川野一宇氏の両人は、共に難病および命にかかわるような大病を患った経験を持つ。各名言が紹介された後でその言葉が紡がれた背景や出典作品の解説がされるのだが、そこにはお二人の経験から得た私見や感想がふんだんに組み込まれている。経験そのものは個人的なものに違いない。しかしその一つひとつが具体的であり、身をもって痛感したことだからこそ、視聴者あるいは読者の心にぴったりと寄り添ってくれるように感じる。また、どうあがいても暗中模索でただただ闇の中をたゆたうしかない状況でも、それをそのままでもいいと肯定してくれているようにも感じる。
 人生で「絶望」しうる理由や原因は人それぞれだが、その底流を流れる悲壮感や焦燥感は普遍的であり、心理的な機微もまた同様だ。「絶望」的な言葉も視点を変えれば多様な顔をみせるが、そこに含意された通底する思いは変わらない。それがゆえに絶望の反対が希望だとすれば、それは表裏一体ではなく、同じ方向をさししめすベクトルであり同じトルクの両輪なのかもしれない。
 
 
 Amazon
 
 NHKラジオ深夜便 絶望名言2

 
 

-感想・レビュー
-