「粗にして野だが卑ではない」石田禮助の生涯
城山三郎
出版社:文藝春秋(文春文庫)
発売日:1992/06/10
素心。正々堂々と働き、正々堂々と生きる。
以前紹介した『中世なぞなぞ集』同様、書架の整理中に再読した本。数々の豪快なエピソードと名言に改めて圧倒されたので紹介。
JRの前身である国鉄。その第五代総裁・石田禮助。
大学卒業後、三井物産に勤め海外の支店で数々の素晴らしい業績をあげ、副社長にまで登り詰めた。引退後は畑仕事をしながらのんびりとした隠居生活を送っていたが、その敏腕を買われ、78歳という高齢ながら国鉄総裁の座を引き受けた。
当時の国鉄総裁は、昭和24年に起こった「下山事件」の当事者である初代・下山定則以下「責任は負わされても何ひとつ権限を持てない」不遇の役職として、政財官界の誰もが敬遠していた。
また国鉄自体も汚職や圧力、組合との軋轢や事故、そして職員のモラルなど問題山積の状態だった。
そんな組織の長を石田は「パブリック・サービス」、すなわち世のために尽くす最良の仕事と捉え快諾したという。明治生まれの気骨稜々の言動と、長年の海外生活で培った合理的思考を武器に、石田は奔走する。
タイトルにもある「粗にして野だが卑ではない」という言葉は、石田が国鉄総裁として初めて国会招致された際、居並ぶ代議士たちを前にして言い放ったものだ。
粗雑で乱暴な言動をしても決して卑しい行いはしない。石田の心意気そのものを示す一流のモットーである。
本書では石田禮助その人の生涯を俯瞰し、どういう場面でどう考えどう行動したかが紐解かれるだけでなく、その背景にある石田の精神性にまで言及されている。またそれを補完するように、著者が執筆当時、辛うじて邂逅することのできたかつての同僚や部下などの貴重な証言も豊富で、その人物像がありありと浮き彫りになっている。
表紙の写真や先の「粗にして…」の言葉から連想される、"頑固そうで偏屈な爺さん"というイメージとは正反対の愚直な人間性がそこに垣間見ることが出来る。
宮崎滔天の"任侠心"と白州次郎の"Country gentleman"の精神、この二つの要素を併せ持って日本的精神性を体現している、そんな印象だ。
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