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【読書感想】高槻泰郎『大坂堂島米市場 江戸幕府vs市場経済』

 
 大坂堂島米市場 江戸幕府vs市場経済
 高槻泰郎
 出版社:講談社(講談社現代新書)
 発売日:2018/07/19

世界最古の先物取引所、その実情

 金融の歴史について書かれた本はあまたあるが、本書はその中でも先物取引の祖といわれる大坂・堂島米市場に関する最新の研究成果を報告してくれる良書である。
 金融市場の暴走、それは現代に生きる我々もまた経験しているところだが、今のようにネット環境はおろか人力以外の情報伝達手段がない中でいかに証券的市場を形成したか、著者は豊富な史料をもとに解説してくれている。図版の多さも有難いが、殊、文書類は現代語訳・原文が並列されており、当時の雰囲気を匂わせてくれる。そしてそこへ冷静な考察を加えているので、読んでいてとても理解しやすくかつ説得力もある。
 当時の取引のそれが、現在の指数先物そのものであることにも驚かされる。鎖国政策下の閉ざされた経済圏ながら、当時の商人文化がいかに先進的だったかうかがえる。
 また堂島米市場と江戸幕府のやりとりは、さながら現代の日銀や金融庁とのそれを彷彿とさせる。よく引き合いに出す言葉だが、「歴史は繰り返さないが韻を踏む」この事実をまざまざと目の前に突きつけられた気がした。

 その中でも個人的に最も興味をそそられたのが、、日本史の教科書に出てきた江戸期三大改革のひとつ「享保の改革」との結びつきだ。今手元にある資料などを紐解いても、享保の改革に「米相場の安定」という項目が目に入るが、その背景にあったものがこれかと合点がいった。時の将軍・徳川吉宗が「米将軍」「米公方」と呼ばれていたことにも納得がいく。
 高校時代、なんとなく憶え読み飛ばしていた事柄が、20年近い時を経てこういう形で結びついたこと、そこに自分の未熟さを痛感せずにはいられなかった。

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