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【読書感想】ヤロスラフ・ハシェク『不埒な人たち』

2021年02月05日

 
 不埒な人たち
 ヤロスラフ・ハシェク 作 / 飯島周 訳

 出版社:平凡社
 発売日:2020/12/10

 現代に響く風刺と反逆の精神

 大作『兵士シュベイクの冒険』を代表作に、カフカ・チャペックと並ぶチェコの代表的作家の短編集。
 40年に満たない短い生涯の中で残した千数百編という驚異の作品群の中から、珠玉の25作が選ばれている。
 どの作品にも、ハシェクの特徴である度し難く強烈なブラックユーモアが響き渡っている。

 作者の批判的精神の矛先は、教師や政治家に留まらず、官憲、ブルジョア、インテリ、共産主義や民族主義といった、当時のヨーロッパ社会の代表的権力に向けられている。
 権力や財力といった社会的な"力"に対する庶民側からの視点、そこへ作者が見た現実への客観的な視点を投影することで、その階級全体のあり方が浮かび上がってくる。至極真っ当な意味での良き批判者である。
 同時代を生きたカフカと対比的類似点が多いことでも知られている作者だが(生年は同じで没年も一年違い)、その破天荒な生活と曲折の多い生涯を顧みた上で、ほとんどの作品に作者の経験が反映されているということから、その振り幅の広さは圧巻極まる。
 しかし同時に、最初の妻の「ハシェクは泣きたくないから笑ったのだ」という回想から、作者にしか理解しえない屈折した心象風景がうかがい知れる。
 不遇と理不尽に振り回された幼少期。アナーキズムの運動に身を投じた青年期。執筆活動と結婚、離婚と放浪、自殺未遂と放蕩生活、軍隊と捕虜生活、不安と失望の烙印……。
 人間の根源的な悲しみを嫌というほど味わいぬいた作者だからこそ、彼の向けた眼差しは現代社会においても突き刺さってくる。
 本書掲載の作品を読めば、第一次世界大戦の軍靴と共にあった当時のヨーロッパ社会の雰囲気に留まらず、作者の持つ様々な視点の切り口も感じることができる。
 ただしあまりにもその振り幅が広すぎるので、玉石混淆の感は否めない。
 

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