インドカレー伝 (河出文庫)
リジ―・コリンガム 著 / 東郷えりか 訳
出版社:河出書房新社
発売日:2016/03/08
カレーをめぐるインド社会文化史
私自身、学生時代の専攻がインド哲学仏教学だったので、その辺りの知識に疎い知人などから「やっぱりインドのことやってるからカレーとか好きなの?」といった愚問(揶揄?)をたびたび投げつけられてきた。単純にそれほどまでに「インド=カレー」という印象は蔓延っているのだろう。
本書はそんなインドにおけるカレーがいかに形作られてきたか、それを歴史的な背景から紐解く意欲作にして名著。文庫版ながら300ページ超の圧巻である。
大航海時代以降、アジアに波寄せた西欧文化。特にインド亜大陸を支配したイギリス文化は、インドのそれと深く融合し相互に影響を及ぼした。もっとも元来周辺諸国からの影響も多く取り込んでいたこともあるが、イギリス支配による文化流入・在地化そして波及は「カレー」誕生の引き金だった。すなわち、「カレー」はインド在のイギリス人のために給された料理が原型だったのである。そしてビクトリア朝、分離独立、戦後の移民問題と、世界史的な視点で「カレー」料理の変遷を辿っている。
そもそもの「カレー」とはなんたるか? という議論より、カレーそのものがどのように形作られてきたということに焦点を当てて書かれているのが興味深い。また図版も多く、随所にカレーを基軸としたインド料理のレシピも掲載されており、インド料理好きにはありがたい。
ある意味、香辛料の歴史を辿る著作といっても過言でもないが、それはまた別の書籍でも詳細に説かれている。本書はあくまでインドにおける文化流入とその需要が主眼となっている。
なにはともあれ、インド好き・カレー好きの方にとっては傍らに常に置いておきたい一冊だろう。
あ、ちなみに私はカレー自体、好きでも嫌いでもない。インド料理全般なんの抵抗もなく好んで食べるが、「カレーが好きか?」と直球で聞かれれば「別にフツー」というのが本音だ。カレーという料理それだけで美味しいものだと思っている。そもそも不味いカレーを作ること自体が不可能だろう(笑)
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