北朝鮮と観光
礒﨑敦仁
出版社:毎日新聞出版
発売日:2019/07/27
観光大国・北朝鮮の実情と狙い
タイトルに心を射抜かれて読んだ本。
拉致問題やミサイルの脅威など、日本にとっては近くて遠い、そして閉ざされた国である北朝鮮。しかし実際には、国交を結ぶ国はヨーロッパを中心にその数は160か国にも及ぶ。
本書はタイトル通り、北朝鮮の観光の実態について書かれた本だが、揚げ足を取るべくその不手際や恥部を晒すような記載は微塵もない。むしろ著者の研究や訪朝経験で入手しえた事実を的確にかつ淡々と報告してくれている。
冒頭にも書かれているが、北朝鮮ツアーに関するパンフレットなど得られる情報源が限られている現実以上に、そもそも日本で北朝鮮観光が真正面から語られること自体稀有だ。
メディアによる報道はあくまで外交的な部分に重きを置かれているし、実際国家事業としてどのような取り組みが執られているか把握することは困難を極める。そもそも、北朝鮮の国内事情さえ日本では知る術が少ない。本書はその詳細(とはいえ諸外国なら常識的に知りえることかもしれない)を事細かに紹介してくれている。
1987年に日本人観光客の受け入れが始まって以来の観光客数の増減とその背景、人気の観光地とツアーの実態など興味深い項目ばかりだ。
旅行会社の情報など北朝鮮の出入国に関することは、その変遷史や背景にある事情も踏まえて紹介されている。
学会やシンポジウムでの報告がベースとなっているので、観光ガイドのような趣とは違いかなり硬派な文章が並ぶ。しかし脚注をはじめとしたエビデンスの多さは、本書が誠実かつ客観的視点から書かれていることの信憑性の高さを裏付けている。
webサイトの情報が豊富なのもありがたいが、それ以上に終盤の第5・6章で「ガイドブック」と日本人による「旅行記」が詳細な解説付きで網羅的に紹介されているのは圧巻だ。