タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源
ピーター・ゴドフリー=スミス 著 / 夏目大 訳
出版社:みすず書房
発売日:2018/11/16
心はどこから生まれどう進化してきたのか?
哲学者にして熟練ダイバーである著者が、タコやイカといった頭足類動物を通して意識や心に思考を巡らせた本書。
生命の始原にまで遡って意識の発生を考察しているなかなかの力作。
タコは脳と8本ある足とで別々の中枢神経系を持つ。高コストな神経系でありながら、その生涯はおよそ2年と短い。
そうした運命下にありながら、小さなコロニーをつくり、仲間とじゃれ合い時には喧嘩をし、誰に充てるでもなく思考とも感情とも分からないカラフルな表出を全身で表現する。
本書にはさまざまなタコやイカが登場するが、描写が活き活きとしているせいかどれも個性的で愛らしい。
しかしながら生物学・生理学的にはかなり論旨の飛躍が目立つ。
また、既存の哲学ツールを用いてタコの主観的意識と人間のそれを比較検討しているが、意識に対する理解を深めているに過ぎずなにか新しい知見が見出されているわけではない。
哲学者にありがちな、問い立ては巧いが回答がイマイチという典型的な感じがしてならない。
中盤では特に顕著で、緻密なのか跳躍なのか、夥しいジャーゴンで煙に巻かれた印象を受ける。
かなり辛辣な書き方となってしまったが、本書全体を通しては実に興味深い一冊だった。翻訳が出た当初、方々で話題に上がったのも頷ける。
特に最終章は"オクトポリス"と名付けたタコのコロニーを巡る一連の考察に充てられているが、さながらSF映画を観ているようなファンタジックな内容には驚かされた。読み手側の知的好奇心をくすぐるに余りある。「タコになったらどんな気分だろう?」と思わず妄想を膨らませてしまいそうになる。