【読書感想】宇野常寛『遅いインターネット』

 
 遅いインターネット
 宇野常寛

 出版社:幻冬舎
 発売日:2020/02/19

 瞬時に世界とつながれる社会の中で”考える”ことの重要性とその過程

 科学の時代の幕が開いて数百年。特にここ数十年でもっとも普及したインターネットは、一体わたしたちの生活になにをもたらしたのか?
 かつてのインターネットといえば、ダイアルアップ接続の音を聞きながら回線がつながるのをひたすら待ったりしたものだが、今やスマホを開けば、あるいはパソコンを立ち上げればすぐさま世界中のありとあらゆる情報に接することができる。極めて便利になったものだ。
 しかし、膨大な情報を瞬時に手に入れることと引き換えにわたしたちが失ったものはじっくりと”思考”する姿勢ではないか? 本書はその部分にフォーカスを当て、インターネットとの新しい付き合い方を模索している。
 ”遅いインターネット”というコンセプトの背景には、SNSやブログを筆頭にネット上で散見する脊椎反射的な反応あるいは根拠のない情報を鵜呑みにした感情論など、有象無象の情報にのまれ極端で柔軟さを欠いた反応がインターネットの広がりとともに大衆化してしまったのではないかという危機感がある。
 たしかに回線速度の向上とともにテキストだけでなく、画像や動画、いわゆる生配信やリモートなど、画面を見つめる側が受け取る情報量は飛躍的に多くなったが、その反面、即断即決で0か1か、イエスかノーか、ありかなしかの判断しかできなくなってしまった世界も広がった。その世界というのは、言ってしまえば考えることを放棄した世界に等しい。判断力が鈍り、中身のないがらんどうな主義主張の跋扈する世界だ。
 だからこそ思考する時間が必要なのだ。じっくり考え、柔軟性をもった態度をとる。タイムラインの波の満ち引きから距離を置き、自分のペースで思考し自分の考えというものをしっかりと出していく、そのためには時間が必要だというのが、著者のいう”遅いインターネット”の意味するところだ。
 
 正直読むにはけっこう体力を必要とする本だったが、その分、読後は程よい快感を覚える。
 「他人の物語」より「自分の物語」が雄弁に語られるようになったことと、それに対する文化やメディアの変化など、興味深い指摘も多かった。
 ただ、多少ネタバレになるが、吉本隆明を出してきた辺りは少々頭でっかちな印象を受けた。言わんとすることには納得できたのだが……。

 総じて”思考”に真っ向から向き合おうとする本書は、秀逸な批評書であることは間違いない。
 また、本書本文が新型コロナウイルスの世界的流行以前に書かれたものである点など考慮して読むと、新たな課題を見出せるかもしれない。
 
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 考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門

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