【読書感想】加藤文元『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』

 
 宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃
 加藤文元

 出版社:KADOKAWA
 発売日:2019/04/25

“未来からやってきた論文”その不思議な世界の姿

 未解明だった数学屈指の難問「ABC予想」を証明したとする望月新一・京都大学教授の論文が、先日、発表より8年近くの歳月を経て査読が終了し、晴れて「ABC予想」解決に至った報道があった。
  cf,未解明だった数学の超難問「ABC予想」を証明 京大の望月教授 斬新・難解で査読に8年
 その論文の中心テーマである「宇宙際タイヒミュラー(IUT)理論」。本書はその理論がどのようなものであるか、その全体像の把握を主題とした”一般向け”の解説書だ。
 著者は多分Twitterで一番有名(?)な数学者、加藤文元・東工大教授。著者のこれまでの著作を読んだことのある人なら、著者の解説がいかに平易であるか容易に想像できるだろう。

 査読に8年近くも要した論文。もちろんその内容は難解極まりない代物だ。
 私も件の論文やそのサーベイ論文なんかも読んだりしたが、素人に毛が生えた程度の人間にはさっぱり理解できなかった。
 しかし本書では、その難解極まりない理論の構造を、数学の基本的な部分にまで立ち返りつつ、また身近な例を引用したりしながらその全体像を少しずつ解きほぐすように紐解いてくれている。
 IUT理論構築までの過程はもちろん、関連する数学の歴史などにも触れてくれているので、理論そのものだけに集中することなく広い視点を常に維持して書かれており、読んでいて息苦しさがない。
 また数式の使用も極力避けられているので、より敷居の高さを感じさせない。もちろん、群や環、遠アーベル幾何学といった専門知識があればより深く理解を進められるが、素因数分解さえあやしいという読者であっても理解できるほど、専門用語にも詳細な解説がなされている。
 なによりメディア露出が極めて少ない望月教授と親交のある著者だからこそ語ることのできるエピソードも豊富なので、読者を飽きさせない。
 
 難解極まりないIUT理論。今回その理論をもちいた末に、これまで未解決だった数学の難問「ABC予想」の解決が果たされた。
 その解決の結果がこれからの数学界に与えうる影響は計り知れないが、しかし今回証明されたのはあくまで「”弱い”ABC予想」であり、「”強い”ABC予想」の証明にはIUT理論をもってしも太刀打ちできるものではない。
 大きな壁を乗り越えた先にある更に大きな壁。なんとも深淵な世界だが、本書はそんな数学の世界へのひとつの大きな道しるべを垣間見させてくれる。
 

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