現実逃避してたらボロボロになった話
永田カビ
出版社:イースト・プレス
発売日:2019/11/07
「そうするしかなかった!」「そうするっきゃない!」現代的無頼派、つまりはマットウな表現者の叫び
『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』などの永田カビ先生の新作エッセイマンガ。
発売されるやいなや、賛否両論さまざまな感想がネット上を賑わしている。
というのも、本作で取り上げられている騒動が今までのエッセイ作品に比べてかなり深刻なものであるばかりではなく、作者の根底にあるであろう「寂しさと愛」というとてもシリアスなテーマが、冒頭からこれでもかというほどに語られ、深く掘り下げられているという点が人の心に刺さったからなのだろう。
前作にあたる『一人交換日記(2) (ビッグコミックススペシャル)』の中で、過度の飲酒から夜尿を繰り返すようになり、結果入院することになったという経緯が語られていた。
その後、無事に退院をしたようではあるが、飲酒は止まるどころかかなり度を過ぎた域にまで達していたようだ。
結果、急性膵炎および脂肪肝という、典型的な大酒飲みの末路に至ったというところから本作は始まっている。
本編ではその入院期間中の事どもがいつも通りの語り口で綴られているのだが、後半では、今までのエッセイ作品でプライベートな部分までも晒しだした結果家族を傷つけてしまったことを悔い、フィクション作品に挑むもなぜ書けないのか、そのことへの考察とエッセイ作品への回帰に至る道程への思索が緻密に描かれている。
結局、作者にはこういう自己表現あるいは自己表出の形が得手であり、なにより「そうするしかない」ということなのだろう。
「何かを表現することは誰かを傷つけること」「誰も傷つけないような表現はない」などといった言葉があるが、ある側面でこれは真理であって、どんな形の表現方法を用いるとも逃れられないジレンマのようなものだ。しかし、その恐れと表現したい気持ちは、何かを表現しようとしている者にとっては同じ感情というカテゴリーにあって、決して相容れるものではないと思う。
本作冒頭で父親から「この事もまた(マンガに)描くんか?」と問われ否定しているシーンがある。きっとこの時は本当に描くつもりはなかったのだろう(これは本編中でも再三にわたって認めている)。だが、やっぱり作者には描く以外の道はなかったようだ。
ふと、谷川俊太郎氏の『これが私の優しさです』という詩を思い出した。
「窓の外の若葉について考えていいですか
そのむこうの青空について考えても?
永遠と虚無について考えてもいいですか
あなたが死にかけているときにあなたが死にかけているときに
あなたについて考えないでいいですか
あなたから遠く遠くはなれて
生きている恋人のことを考えても?それがあなたを考えることにつながる
とそう信じてもいいですか
それほど強くなっていいですか
あなたのおかげで」
作者の今までのエッセイ作品同様本作もまた、何かを表現したいともがき苦しんでいる人に光を与えてくれる作品になっていると思う。
私もその中の一人として、本作からもさまざまな気付きをもらった気がしている。素直に読んでよかったと、そう思えるのだ。
ちなみに、全編カラーは蛍光オレンジばかりなので読んでいると目がチカチカしてくるのは難点だったw
あと、途中に出てくる『ねじ式』ネタはつげ義春ファンに限らずとも噴飯必至だw
これが私の優しさです 谷川俊太郎詩集 |
ねじ式 / つげ義春 |