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【読書感想】服部文祥『北海道犬旅サバイバル』

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みすず書房
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 北海道犬旅サバイバル
 服部文祥
 出版社:みすず書房
 発売日:2023/09/13

人が人として生きるためのアナロジー

 お金、スマホ・・・現代社会ではなくてはならないあらゆるものを持たずに猟銃と愛犬だけを引き連れて旅をする、文字通りのサバイバル。「サバイバル登山家」として著名な著者が、50歳という人生の節目を迎えるにあたり挑んだ登山家人生の集大成の旅の記録。社会というシステムに必要不可欠な要素をほぼすべて排除し挑んだ北海道南北分水嶺700kmの旅は、北は宗谷岬から南は襟裳岬までの「荒野」を自力で踏破する荒行だ。
 「サバイバル」と一言にいってもそこに想起する姿はさまざまあるだろう。果せるかな、著者の場合はどうしてもぬぐい切れない人間としての性、現代社会に生きる者の常としてつきまとう煩悩の深さに微塵も抗わない。通りすがりの人に乞食扱いされようが、道端に落ちているものを拾って食べようが、たまたま出くわした人にカンパを要求したり、あるいは「帰ろうかな」と旅の根底を揺るがすような想念に耽ったりする。これ自体、今回の旅の前提となる「仮想的」荒野に放り出された人間の剝き出しのありのままの姿に他ならない。縛りを設けておきながらその縛りに翻弄されるジレンマ。
 無銭旅といえば、昭和の若者の代名詞ともいえるべき風来坊で破天荒なイメージを髣髴とさせるが、50がらみの中年でも成しえること、またあまたの艱難辛苦を乗り越えてきた経験者であっても「一人では生きていけない」という厳しい現実を読む者に与えてくれる。それは冒頭より綿密な計画とデポの確保という入念な準備段階が語られていることからも、想像を絶するところを諭される。

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