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【読書感想】鈴木棠三編『中世なぞなぞ集』

 
 中世なぞなぞ集
 鈴木棠三

 出版社:岩波書店(岩波文庫)
 発売日:1985/05/16

古くて新しい脳トレ

 
 先日蔵書の整理をしていた際、ついつい再読してしまった本。
 室町~江戸初期にかけて書かれた「なぞなぞ」本のアンソロジー。編者は柳田國男・折口信夫の愛弟子である国文学者の鈴木棠三。
 掲載されている古の「なぞなぞ」は、どれもダジャレやトンチが利いていて粋で風雅な言葉遊びそのもの。さまざまな言葉がぶつかり合って、絶妙な化学反応を起こしている。そこには、中世日本の知識階級の美意識を見出さずにはいられない。
 とはいえ件の「なぞなぞ」に現代を生きる我々が挑戦してみようとすると、実際問題チンプンカンプンだったりする。それというのも、当時の文化的背景の知識はもちろん、現代人にとって既に忘却されてしまっている五感の繊細な機微など、同時代的精神性のフル活用が求められるからだ。現代的感覚のままでは丸きり手も足も出ないものがほとんどである。
 ただ幸いなことに、各書各問には丁寧な解説が附されている。中にはその解説を読んではじめて納得できるものも多い。
 これは裏を返せば、当時の文化周辺を読み解く上で貴重な史料のひとつだともいえる。
 特に言語学の分野では決定的なものがあって、古代国語の音韻論においてはあまりにも有名な一問「"はは"には二たびあひたれども"ちち"には一どもあはず(答・くちびる)」などが良い例だ。この一問から、中世までの日本語において、現在の「ハ行」は「F(/P)行」で発音されていたことが分かる。詳細は本書内の解説に譲る。
 
 そんなことを加味しながら、当時と比して計り知れないほどの文明的発展を遂げた現代社会において、言葉という限られたツールだけを用いて知識や五感をフル回転させてくれる本書は、ある種、古くて新しい脳トレ本と言えないだろうか?

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