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【読書感想】宇沢弘文『社会的共通資本』

 
 社会的共通資本
 宇沢弘文

 出版社:岩波書店(岩波新書)
 発売日:2000/11/20

 ひとがヒトとして豊かに生活できる社会的装置

 
 世界的に蔓延する新型コロナの影響から求められ始めた、新しい生活様式。
 また某国大統領による独善的な経済政策や国際間での摩擦、「資本主義の終焉」と叫ばれて久しい中でそんなことにあれだこれだと考えを巡らせているうちにふと思い出して再読した本。
 
 日本人としてもっともノーベル経済学賞に近づいた人物といわれる著者が提唱した「社会的共通資本」。それは20世紀を象徴する資本主義と社会主義を超える社会システムとして生み出された概念であり、本書はその「社会的共通資本」を解説した経済書だ。
 特定の個人および集団、またそれらの市場原理に依らず、関係する全員で支え合い共益するという視点の下、農業・都市・教育、医療や金融、地球環境それぞれでのあり方を展開している。
 「ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置」としての制度資本がいかに重要であるか、実によくわかる。新自由主義の風潮漂う金融においてその脆弱性を簡潔に指摘し、また農業をはじめとする第一次産業を自国で賄うことの重要性についてはかなり力説している。医療現場における医師個人の技術力と報酬のジレンマ、「クルマ社会」化から引き起こされた社会問題の原因を、街や社会がデザインされていく過程にまで求めている部分は刮目に値する。
 時折今では使い古された理論や概念も出てきて時代の流れを感じさせられるが、いかなる時代においても普遍的に通用する切り口には感嘆の声しかない。

 個人的に件の概念を把握するには序章から第一章を読むだけで十分だと思う。
 その後の各分野でのあり方については、若干著者の過去の論文を使いまわしていたり単にエッセイ的な部分もところどころで散見される。しかしそこは斜に構えず読みたいところ。
 著者が生涯をかけて主張してきた概念だからこそ、読むたびに新しい気付きを与えてくれる名著には違いない。

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 資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界

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