人は、なぜ他人を許せないのか?
中野信子
出版社:アスコム
発売日:2020/01/25
する側される側、すべての「正義中毒」者への処方箋
炎上、不謹慎狩り、不倫叩きにハラスメント……。
SNSなどの普及により、「他人を許せない」「自分こそ絶対に正しい」と豪語して止まない人びとが世間に溢れかえっるようになった。いや、もともと潜在的にいたものが、手軽なツールの登場によって表面化し、彼らとの遭遇率が高まってきたというべきだろうか? インターネットなどなかった時代なら市井のそこかしこで繰り広げられていた井戸端会議が、今ではいつでもどこでも容易に参加し簡単にその標的とされてしまう。
そんな独りよがりな正義を振りかざし、一方的な怒りの感情をぶつけずにはいられないいわゆる「正義中毒」の人びとの裏には一体何が潜んでいるのか? この問題を脳科学の観点から紐解こうというのが本書。
怒りの感情が沸き起こる原因やそのとき脳内で何が起こっているのかなどについては、脳科学や心理学に触れた人なら知っているだろう点が多々ある。しかし日本の地勢的条件が歴史的な背景とあいまって我々日本人の国民性や思考パターンにどのような影響を与えてきたか、その視点からこの「正義中毒」を紐解いてみると一筋縄ではいかないなにかが見えてくる。
個人的にとても興味をひかれたが「議論」にまつわる話しなのだが、著者がフランスで研究員をしていたころの経験から、日本と欧米とでの議論の仕方の違いなどまさしくその通りだと感じた。議論に意見の対立は必然だが、その対立は深めるものであって攻撃するためのものではない。日本の議論の場においては、意見の対立する相手の人格否定にいたる場面に多々出くわす。どうしても「意見≠人格」という切り離しが出来ていないのだ。わたし自身は大変理屈っぽいので、話しをしていても噛みつかれることがよくあり、しょっちゅう辟易している。議論の仕方ひとつ学ぶだけでも心には随分と余裕ができるものなのにと思いながら。……
世の中には本当に多種多様なひとがいる。それとほぼ同等に、自分とは違う意見や正しさが存在している。その存在を知っているだけでも十分なのではないだろうか?