意識と感覚のない世界――実のところ、麻酔科医は何をしているのか
ヘンリー・ジェイ・プリスビロー 著
小田嶋由美子 訳 勝間田敬弘 監修
出版社:みすず書房
発売日:2019/12/16
麻酔科医という謎多き医師の仕事とは? 現場から見えてくる人間模様
著者は長年にわたり何千件という全身麻酔を伴う手術に立ち会ってきたその道のスペシャリスト。しかも、麻酔を施す上でも技術と経験が必要とされる小児科専門の麻酔科医。
最近解明されたようだが、全身麻酔でなぜ人が意識を失うのかついてのメカニズムは科学的には長年謎だった。本書ではその麻酔の歴史、薬剤の効果効能の解説を含め、著者自身が体験したさまざまな"麻酔"の現場にまつわるエピソードが紹介されている。
cf,100年以上謎だった「なぜ全身麻酔で人は意識を失うのか」がようやく解明へ
消化器科や整形外科など、患者から見て表立って治療の有無が確認できる診療科とは違い、麻酔科に関しては外科手術の現場において患者が意識を失っている状態でその仕事を遂行するため、一体どのような医療行為を行っているのかその実態はつかみにくい。
しかし本書を読んでみると、手術ひとつとってもその前後、特に手術室に入る直前までがいかに大切なのかが繰り返し強調されていて、かなりの驚きを感じた。また患者ひとり一人、そしてその家族それぞれの背景に見え隠れする悩みや問題が、実のところ"麻酔"という医療行為に影響を及ぼす実態など、衝撃的な事実が目白押しだ。
なかには"トンデモナイ"患者を相手にする場面もあるが、その後日談の悲喜こもごもなど、麻酔科医ならではの興味深い体験も読みごたえがあった。
とはいえその書き口になんともアメリカ的な自己顕示欲に駆られている節も感じたが、それも読んでいくうちに、麻酔科医として医療の最前線に立ち続けてきた自信と矜持に裏打ちされたが故の言葉だと分かった。
医療に携わっていない者からすると、古くて新しい医療の姿を発見できる稀有な一冊だろう。