iPS細胞の歩みと挑戦
京都大学iPS細胞研究所国際広報室
出版社:東京書籍
発売日:2020/05/20
iPS細胞から見える人類の未来像とその現在
2012年、iPS細胞開発の功績によりノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授。
その山中先生らが中心となり、2010年、iPS細胞研究に特化した研究所として「京都大学iPS細胞研究所(CiRA)」が設立された。
iPS細胞研究のメッカとして世界にその研究成果を発信し、科学の発展に寄与することを目的としているこの研究所には、現在500名を超えるメンバーが終結している。
今年で研究所設立10周年を迎える記念として刊行された本書だが、研究所内部のこと以上に件のiPS細胞について大半のページが割かれている。
これまでもさまざまなメディアで紹介されてきているiPS細胞とはいえ、その研究の本家本元による解説はやはり一味違う。当然のように専門用語が並ぶが、それを携えた文章が非常に明解で、かつ咀嚼されていて実に理解しやすい。世間一般では理系の学術領域のものはハードルが高いという印象が強いと思うが、その中でも医学生理学となるとひと際だろう。
しかしそんな敷居の高さを感じさせることなく、iPS細胞の開発の経緯やその特質、現在行われている研究や今後の課題など、とても平易に解説されている。またそれを補うような図説や写真も豊富で、一読だけでは理解しがたい部分でも容易にイメージをつかむことができる。
後半になってやっと研究所の紹介と山中先生をはじめとしたスタッフの座談会が掲載されているが、そこに至ってはじめて、なぜ本書の大半のページがiPS細胞に関するものであるのかが理解できた。
本書で解説されているiPS細胞のそれは、そのまま現在進行形として研究所で問われている課題そのものなのだ。
特に座談会の記事ではそのことを如実に感じさせられるが、一つ驚いたのは、こうした理系の領域ながら、スタッフの中には文系出身の方も多いということだ。
iPS細胞の先駆であるES細胞では明白だが、ことiPS細胞でもその倫理的問題は数々指摘されている。そうした部分へのアプローチには、やはり文系的視点、特に倫理学的な視座がどうしても要求されることだろう。また法学的な問題もあるだろう。
いずれにしても、人類の未来をも変えることが予想される最新技術の現場にあって、文理の垣根を超え、人類の英知が未来と対峙している縮図のようなものが垣間見れた。
近年では臨床での応用の報告も聞く。
まだまだ始まったばかりの未来への挑戦に、ますます目が離せなくなる。
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山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた