
ルワンダ中央銀行総裁日記 [増補版]
服部正也
出版社:中央公論新社(中公新書290)
発売日:2009/11/25
ルワンダ中央銀行総裁日記 [増補版] (中公新書) Kindle版
その国の人々が生きていくための援助とは?
50年以上前、アフリカの小国ルワンダの中央銀行総裁として派遣された著者が、ルワンダ発展のために奔走する過程を追った実録。中公新書の中でも屈指のロングセラーであり、2009年にルワンダ動乱に関する一文が増補されてからは「リアルなろう小説」「リアル異世界召喚」などとしてSNSを中心に多くの人に知られるようになった。
ベルギーの植民地支配から独立間もない1960年代半ば、世界の最貧国のひとつであったルワンダは生活物資にも事欠くことはもちろん、脆弱な組織と制度、資金不足、多数の無能な役人と利己的な外国人顧問たちなど、国としてまともに機能している状態ではなかった。そんな国の経済再建を託された著者は、中央銀行総裁としての業務に囚われずルワンダを経済的に独立・発展させるため、通貨安定政策、財政再建政策、マクロ・ミクロ経済を安定化させる政策を次々と打ち出していった。その間、宗主国ベルギーや欧州諸国からの差別や偏見に常にさらされつづけたが、公平性と強いリーダーシップ、ルワンダ国民への愛情で所期の目的を達し同国の経済発展の土台を築いた。
だが著者が優れているのは、短期間でさまざまな成果をあげたことだけにとどまらない。それは、あくまでも「自国は自国民が経営する」のがあるべき姿なのだという確固たる信念のもと、自身の駐在任期を終えた後はルワンダの国民が自ら考え決断・行動できるような仕組みを作り上げたことだ。「支援・援助」の名のもとで、なんでも指導したり手を差し伸べれば良いものではない。むしろ目先の仕事にとらわれず、大局を見据えた判断や行動がいかに重要であることか、著者の言動からはそのことが痛いほど感じられる。
この徹底した現場主義、その背景には著者の経歴も大いに関係しているのだろう。戦前・戦中において、台湾総督府勤務やラバウルの戦犯裁判弁護人を務めた経歴からは、植民地というものがどういうものなのか、また植民地から抜け出すためにどういう努力が必要なのかを語るには十分すぎるものがあるだろう。「途上国の発展を阻む最大の障害は人の問題であるが、その発展の最大の要素もまた人なのである」という説得力ある言葉からは、著者が終始人間そのものを拠り所にしていたことが窺える。
またその気持ちを反映するがごとく、本書に増補された90年代のルワンダ動乱に関する一文からは、著者の忸怩たる思いが感じられてならない。