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【読書感想】長谷川泰子『中原中也との愛 ゆきてかへらぬ』

2025年07月26日

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KADOKAWA
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 中原中也との愛 ゆきてかへらぬ
 長谷川泰子 / 村上護
 出版社:KADOKAWA(角川ソフィア文庫)
 発売日:2006/03/24

日本文学史のファム・ファタール

 夭折の天才詩人・中原中也。彼の代表的なポートレートは、残された数々の名詩以上に有名だろう。なによりその生涯を少しでも知る人にとって、盟友・小林秀雄との間で「ある女性」を巡る不思議な三角関係が生じていたことはあまりにも有名なエピソードだ。
 その「ある女性」というのが本書の語り部である長谷川泰子だ。中也や小林の生涯については、数々の研究や解説書で詳らかに語られてきているが、その間で揺れ動いた彼女の生涯はほとんど世に知られることがなかった。どのような人生を歩み、なにを感じどう行動してきたか、そしてそれが詩人・中原中也にどのような影響を与えるに至ったかの一片を垣間見ることができた気がした。
 本書の聞き手であり編者である村上護氏は、中也の実母への直接インタビューなど中也周辺への精力的な取材による著作が数多くあるが、その中でも特に、詩人としての中也がどのように成長していったかを知る上で本書は重要な一冊となっている。また本書は今年頭に映画化された同名作の原作でもある。

 私も中也の詩は好きで今でもよく読み返すが、これまでも中也・小林・長谷川の三角関係は知っていてもその背景になにがあったかまでは気にも留めなかった。たとえば『新潮日本文学アルバム』のようなものを開いても、「ああ、この人が長谷川泰子か……」と思う程度だった。だが、本書を通してその生涯と彼女目線からの当時の人間関係をなぞってみると、中也のさまざまな作品の背景に腑に落ちるものを感じざるを得ない。
 ふと『新潮日本文学アルバム』の奥付を開いてみると、そこに「中垣泰子」という名があることにあらためて気づかされた。夭折の天才詩人の人生とその数奇な人間関係が見て取れるような気がした。
 
 
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