タモリ学
戸部田誠(てれびのスキマ)
出版社:イースト・プレス(文庫ぎんが堂)
発売日:2022/02/10
なにかを脱いだら楽になる、タモリの履歴書
お笑いビッグ3として、長らく日本の芸能界を牽引してきたタモリさん。名番組の司会や多趣味が高じた言論など、その伝説的な生き様は今なお更なる進化を遂げている。その一つひとつをあげつらえば枚挙に暇がないが、そんなタモリさん自身はもちろんのこと周囲の人々の様々な言動まで拾い集め、人間「タモリ」の人物像を描き出そうとしている本書はかなりの力作だ。よくぞかき集めたと言わんばかりのエピソードの数だが、著者の独りよがりあるいは前のめりなマニアックさは適切に抑えられており、極めて冷静な分析がなされていて評価できる一冊となっている。
さて本書の内容だが、タイトルそのもの相応しく、タモリさんの生き様、その人生哲学に触れる意味でまさしく「タモリ学」といえるものだ。
タモリさんにとってお笑いとは何か? という問いを立てるならば、そこに自然と生き方そのものが見え隠れする。自ら出しゃばらずにその場の雰囲気を利用し笑いに変え、言葉をもてあそび、その意味さえ超越してまるっきり自由に言葉を翻弄する。それはどこか、合気道の達人のような変幻自在な立ち居振る舞い方で、「ユルさ」とは一線を画した、本当の意味でのジャズな生き様なのかもしれない。理想や完璧を求めず、現状を見据えてそこで最大限の満足をする、まさしく「足るを知る」刹那的な生き方ともいえる。その背景には、にじみ出る教養の深さと数奇な人生経験の裏打ちがあることは確かだが、その一方で夏目漱石『草枕』冒頭の一節を地で行くようなアイロニーのようにも思えてならない。