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【読書感想】丸山ゴンザレス『タバコの煙、旅の記憶』

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 タバコの煙、旅の記憶
 丸山ゴンザレス
 出版社:産業編集センター(わたしの旅ブックス)
 発売日:2024/01/24

 とあるジャーナリストが生まれた理由

 
 昨今の禁煙ブームも相俟って世界的に犬猿されるタバコだが、喫煙者にとっては各々忘れがたい思い出があるものだ。
 『グレートジャーニー』などで知られる通り、危険地帯へ身体一つで乗り込む姿が印象的な本書の著者・丸山ゴンザレスさんもその一人で、ジャーナリスト人生の最初の一歩を踏み出し、そして現在に至る旅の数々の場面にはタバコが傍らにあった。
 本書は著者の旅の記録でありながら、一面ではエッセイのそれだ。
 各章のどれにも読者は経験しえない刺激的な旅・取材のエピソードが語られているが、その随所にノスタルジックな回想が散りばめられている。決してメディアでは見られない、装飾のない素の著者の姿がそこにある。
 そもそもつい数十年前までは、ルンペンなど放浪旅が若者の間で流行っていた時期なら誰しも紫煙に巻かれた経験をもっているだろう。自分はその世代でもないしそもそもそうした経験を持ち合わせていないが、辛うじてその印象を深く刻んだ時代に生まれ育っているのでなんとはなしに感じ取ることができる。ある種の憧憬のようなものかもしれないが、本書を読めば著者がその渦中にあった人であることがよくわかるだろう。
 いまでこそ忌み嫌われるタバコだが、「臭いものには蓋」といった先入観なしに本書をたどれば、そこに見えてくるのは儚く切ない青春の香りかも知れない。
 海外の一隅で一瞬だけ交差するさまざまな人生。ニコチンやタールの摂取といった化学的な意味合いだけでは説明のつかない本能的な行動。一人のジャーナリストの人生の一面は、どんな挫折と成長の味がするのだろうか? ハードボイルド的な文章がそこに塩味を加えている。
 

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