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【読書感想】渡辺努『物価とは何か』

 
 物価とは何か
 渡辺努

 出版社:講談社(講談社選書メチエ)
 発売日:2022/01/13

物価という名のふしぎな生きもの

 物価高が叫ばれる昨今、これまで以上にお金に対する意識は高まりをみせている。だがその反面、そもそも「物価とはなにか?」その本質に目を向けている人は多くないだろう。メディアが発する「物価」「物価」の連呼を、合言葉のように繰り返す市井。日本らしいといえばそれまでだが、そこにはどこか現実を見てみぬふりをしている姿勢が垣間見える。
 
 そんな「物価とはなにか?」という単刀直入なタイトルの本書は、発売以来、硬派な内容ながら多くの支持を獲得している。
 著者は日銀出身の経済学者。言うなればその道のプロ中のプロである。その著者が真正面から物価という概念の本質に向き合っている本書は、近来稀にみる超絶"骨太"本だ。
 そもそも複雑にして全体像を把握しづらい「物価」という概念について、「ゆらゆらと動く蚊柱」というなんとも絶妙な表現をもってうまく説明している。内容はもちろん、扱われている理論のどれもが難解なものばかりだが、平易な文章と卑近な例の多用、そして懇切丁寧な解説で読む側の理解を大いに助けてくれる。そしてミクロ・マクロ双方の経済学的視点を中心に、ビッグデータの多面的な分析、学際的視点など応用範囲も広く、物価の基礎基本から発展まで幅広く扱っていながら実に理解しやすい。
 一方で、読めば読むほど「物価」のなんたるかを実は何もわかっていないことに気づかされるのも妙だ。「物価」というひとつの槪念に、我々一般市民はもとより中央銀行、経済学者もまた右往左往している。そこで面白いのが、物価の変動に作用する「一般人の予想」という点だろう。それがあってこそ説明しうる「物価の変動」という現象。「インフレもデフレもない社会をどう目指すのか?」、著者はこの点を徹底的に掘り下げている。
 一読者として、「著者はどれだけ頭の良い人なのだろう…」と感じるとともに、現代日本において本書が評判以上の必読必須の良書であると感じざるを得なかった。
 
 ただ、タイトルだけはどうしたものかと思う。こういうタイトルにならざるを得ないのは読んでみれば火を見るより明らかなのだが、編集者というか出版社泣かせだよな・・・と思うのだ。昔の新書なら軒並みこんなタイトルが並んだけれど、300ページ超の単行本、そして講談社選書メチエというお堅い感じの出所からすると、売れることよりも読ませることに全振りしている感がある(笑)

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