世界史の考え方 (シリーズ歴史総合を学ぶ 1)
小川幸司,成田龍一 編
出版社:岩波書店(岩波新書 新赤版1917)
発売日:2022/03/22
歴史教育の未来を変える
今年2022年4月より高校の教育課程においてはじまった「歴史総合」の学習。
世界史・日本史といった単一的な垣根を越え、これまでの歴史認識を見つめ直しより広範なアプローチから「歴史」を捉え直そうという教科である。
こうした視点から歴史を読み解くこと自体、近年全人類に求められる課題であり、また私自身も重要視しているところだ。
だが本書を読んでみると、果たして高校の教育課程にある学生に対して、そうした俯瞰的視点から歴史を再確認すること自体、かなり難易度の高いことなのではないかと思い知らされた。
冒頭で「歴史学の試みと成果」「歴史教育における実践とねらい」を明らかにしたいという本書の意図が記されている。教員と学者による対話のなかで繰り広げられるそれは、歴史学と歴史教育の相互の関係性を深める意味合いを持つものだ。
しかしその一方、「歴史総合」は「現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を考察、構想する」科目という目標が掲げられている。
未だ学術的基礎を学ぶ過程にある高校の教育課程において、果たしてそれは相応しいのであろうか? 大学の学士過程においても、各専門分野の基礎をより深く学ぶための下地を形成しているに過ぎないのに、その更に前段階を学習する学徒に求められるかどうか……? むしろある程度の学術的な基礎知識を体得し、歴史の何たるかを理解し得る門扉が開かれる事象に立ててこそ、「歴史総合」の理念が果されるのではないか?
正直なところ、本書を読んでいるとそのハードルの高さを嫌というほど認識せざるを得ない。
逆に本書は、アイロニー的に「歴史総合」という科目の無理筋を暗示しているのかもしれない。
高校生といえども立派な一人の人間である。だが、その専門分野で長らく艱難辛苦に耐え忍んでもなお未だ正鵠を射る見解を出せない専門家の姿を見ると、「歴史総合」という新たな科目の理念は実に重要であるものの、その実際は「学習」の範疇を超えたものに他ならないのではないか、そう思わざるを得ない。
もちろんひとつの読み物として本書に当たる分には、学べる部分も非常に多く興味深い一冊になっている。
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新しい高校教科書に学ぶ大人の教養 歴史総合