よい移民 現代イギリスを生きる21人の物語
ニケシュ・シュクラ 編 / 栢木 清吾 訳
出版社:創元社
発売日:2019/07/29
人と人を分け隔てるもの。そして人と人をつなぐもの。
イギリスに住む21人の"体験"談をまとめた本書。
この21人は作家や俳優、クリエイターなどさまざまな職業だが、みないずれもアジアやアフリカからの移民の子孫だ。
イギリス社会に沁み込んだ差別と無知。
同じ国に生まれながら移民の子孫であるがために直面した差別や偏見、暴力や格差。
そこに対する不安や怒り、戸惑いと悲哀が、皮肉とユーモアと相俟って各人の物語る中ににじみ出ている。
人と人と分け隔てるものとは何か?
言語、文化、宗教、ジェンダー、肌の色……各人が抱える背景にはさまざまな要因がある。しかし、それらが同じ人間同士を分け隔てる理由となってよいのだろうか?
ヨーロッパ諸国を中心にいまだ根強い白人至上主義。
それが蔓延る社会において、移民自身、はたまたその子孫までが白人を意識し自らの印象を「よく」見せることが求められる事実。
社会環境そのものが"差別"を生み出している状況を思い知らされる。
これらはイギリスに限ったことではない。某国を中心に自国第一主義の台頭や移民排斥の流れが強くなっていることは、日々のニュースでもうんざりするほど目の当たりにする。
日本に住む私たちもまた、ジェンダーやヘイトといった同等の問題の渦中にある。
「多様性」という言葉を頻繁に目にするようになって久しいが、この言葉自体も大いに問題を孕んでいるだろう。
社会や文化の差異という意味での「多様性」と、複雑な背景をもつ個人間での「多様性」は、一見視点の大きさの違いだけのような気もするが、その意味の重さには明らかな違いがあるように思えてならない。
同じ国、同じ社会、同じ人種、同じ宗教……しかし人間一人ひとりは実に多面的で多様な背景をもつ。それを国境や社会、文化という大きな括りの隔たりで「多様」と見做すのは無理がある。
本当の意味の「多様性」とは、個人間の、一人ひとりの人間同士の「多様性」への配慮を意味するのではないだろうか?
本書後半で、ジャマイカ移民の母を持つ女性の文章の中から一文を紹介しよう。
「私が真に興味を持っている色は、人間の色、あなたの人間性の色」
深く胸に突き刺さった。
最後に本書全体に関し、訳者は人種や移民問題の専門家であり、本書翻訳にも情熱的に取り組まれたことが「あとがき」から分かるが、全体的に訳がこなれていない印象を受けた。原注に加え訳註も多く挿入されているが、ときには直訳的でその文章全体の雰囲気が台無しになってしまっている部分が散見する。気になる方はご注意されたい。