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【読書感想】宮地尚子『傷を愛せるか 増補新版』

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筑摩書房
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 傷を愛せるか 増補新版
 宮地尚子
 出版社:筑摩書房(ちくま文庫 み-37-1)
 発売日:2022/09/12

弱いまま、強くあること

 心の傷を治療する立場の精神科医による「傷」をめぐるエッセイ。素朴でまっすぐな言葉選びで紡がれた文章からは、傷ついた者にただ寄り添うだけでもどれほど救われることかを体現したような優しさと温かさがある。
 「傷」といってもその様態にはさまざまなものがあるが、多くの人にとっては触れたくも見たくもないものだろう。しかし、その傷を多角的に観察し、「さらなる傷を負わないよう」手当てをする。タイトルにある「傷を愛する」とは、「傷がそこにあることを認め、受け入れること」と著者は語る。それはまさしく、傷を負った人への祈りであり見守りであり、支えである。
 著者は学歴・経歴ともに世間の人からは申し分ないものを持ち合わせているが、だがそれ以前に一人の人間としての自分の存在を飾ることなくさらけ出し、その弱さもまた吟味しているからこそ、本書で綴られた言葉は読んでいる者の心にもすっと溶け込んでくる。

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