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【読書感想】藤本靖『OSO18を追え 〝怪物ヒグマ〟との闘い560日』

2025年02月24日

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 OSO18を追え 〝怪物ヒグマ〟との闘い560日
 藤本靖
 出版社:文藝春秋
 発売日:2024/07/11

驚異のヒグマが生まれた理由

 「事実は小説より奇なり」という言葉があるが、事実は時として現実の奇を小説のように語る。
 2020年以降、全国的にも大々的に報道された家畜を襲うヒグマ「OSO18」。その姿を追い求め、捕獲に奔走したハンターたちの物語。
 膨大なデータの蓄積をもとに練られた緻密な戦略は、百戦錬磨の熟練ハンターたちだからこそ為しえたものだ。その一方でそんなハンターたちでさえ煙に巻くOSO18。ページを繰れば、ヒグマvs人間の前代未聞の知能戦がいかに巧妙にして緊張感極まりない中で繰り広げていたかが分かる。
 だがその背景にあるものは、どうしてこのような特異なヒグマが現れたのかという点に絞られる。
 結論からいうと、自然保護・鳥獣保護という観点からのエゾシカの激増、ハンターのマナー崩壊、ハンター不足といった人間の配慮に欠けた生態系への侵害の実態が浮き彫りとなってくる。都合のいい自然保護などありえないことだし、絶対に避けなければならない。この事実は自然との共存が決して容易ではないことを裏付けている。
 ここ数年、毎年夏季になるとクマ出没とその駆除のニュースが世間を賑わせる。それと同時にクマ駆除へのクレームが各関係機関に寄せられる苦情が、いかに現実を直視していない場違いなものであることか……。
 そんなことを考えるにつけ、本当の意味で恐ろしい生き物は人間なのだという現実をまざまざと突きつけられて気がした。

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