結局,ウナギは食べていいのか問題
海部健三
出版社:岩波書店(岩波科学ライブラリー)
発売日:2019/07/19
日本の食文化が直面している危機とこれからのこと
近年、サンマやイカといった日本近海の資源減少が大きな問題となっている。
その中でもウナギに関するものは最たるもので、俎上に上がって久しい。また特に土用の丑の日近辺では、コンビニ業界などの本末転倒なキャンペーンと相俟って毎年のようにその危機的状況が叫ばれている。
本書では、日本の食文化に関わりの深いウナギをめぐる資源保護の現状とこれからについて、専門的な内容にまで踏み込んでの解説がされている。
全8章中7章で、ウナギの絶滅や密漁・密輸といった違法行為、完全養殖にまつわる問題点などについてQ&A形式で深掘りされており、また最終章では今後消費者がとるべき行動についての指針が示される。
そこから見えてくるのは、ウナギを巡る諸問題について今後とも解決すべき課題が山積している現状だ。
生態のすべてが解明されているわけではないウナギ自体に関する問題のほか、ようやく資源状態の解析や取締りが始まったばかりという状況、そして問題解決に行政があまり積極的ではない実情など、かなりシリアスな内容となっている。
巻末のあとがきではウナギに関する研究の現状も示されているが、そこでは著者の積極的な活動に対し一部から批判の声があがっていることまで知らされている。それは産業界に不利な情報も忖度なく発信しているためだが、本当に一つの分野の再起を願うならば、正負両面からのアプローチとそこから昇華される課題の克服への積極的な姿勢は必須だろう。著者の今後の奮闘にも大いに期待したくなる。
実際のところタイトルに惹かれて目を通した本だったが、読む前の心の穏やかさは即座に消し飛んでしまい、内容の濃さに圧倒されてしまったことを白状しておこう。