日本人は豚になる 三島由紀夫の予言
適菜収
出版社:ベストセラーズ
発売日:2020/11/04
今の日本に響かせたい三島由紀夫の金言と慧眼
安倍前首相はじめその周辺への最も的確な批判者として名高い著者。
本書はそんな適菜節ともいえる辛辣な言説を交えながら、不世出の文豪・三島由紀夫が晩年近くに何をどうとらえ、考えていたかを問い直している。
評論作品を中心とした著者の的確な抜粋は、三島が危惧した将来の日本の姿がいかに現在の日本と酷似しているかを物語っている。
そしてそのどれもが現代日本の陥った泥沼に鋭利に突き刺さっていく。
もはや"予言"を通り越して断言しているといっても過言ではないだろう。それほどまでに、三島はこの国の将来を憂いていた。
「盾の会」の創設にはじまり、右翼化、そして左翼学生らとの討論。
本書冒頭で、著者は三島が「遠い過去の偉人」から「同じ視線の持ち主」に思えてきたと書いているが、なるほど、現代日本の実情を憂いる視線は三島のそれと違わないはずはない。改めて三島由紀夫の先見性には驚かされる。
本書は難解になった晩年の三島思想について、ニーチェをはじめとした多くの著名人の言説も借りながら、実に分かりやすく解きほぐしてくれる。
その一方で数多くある三島論の中でもかなり異色の作品ともいえる本書は、今までに三島の作品や評論、あるいは三島をあつかった著作に触れたことのない読者にとっては少し読みづらい部分もあるだろう。三島の入門書としてはあまり適当でないかもしれない。
またときどき顔を見せる著者一流の言説も、痛快といえば痛快だがひっかかる読者もいることだろう。
いずれにしても、2020年に没後50年を迎え再燃した三島由紀夫への評価と、それと相俟って突きつけられる平成の30年間の結果。
本書はその集大成といえるだろう。
最後に、本書「おわりに」でもひかれているが、最晩年の三島の絶望を物語る一文を添える。
「私はこれからの日本に大して希望をつなぐことができない。このまま行ったら日本はなくなってしまうのではないかという感を日ましに深くする。日本はなくなって、その代わりに、無機質な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜け目がない、或る経済的大国が極東の一角に残るのであろう。それでもいいと思っている人たちと、私は口をきく気にもなれなくなっているのである」(「果たし得ていない約束」より)
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