【読書感想】大島正二『漢字伝来』

 
 漢字伝来
 大島正二

 出版社:岩波書店(岩波新書)
 発売日:2006/08/18

 

古代日本における漢字の受容と日本語への変遷を辿る歴史書

 「さすが岩波新書!」と雄叫びを挙げたくなる良書。泣く子も黙る岩波新書だと感嘆せざるを得ない。
 中国伝来の漢字と出会って以来、古代の日本人が試行錯誤を繰り返すなかで次第に日本語への置換がすすみ、かな文字を完成していく過程が克明に解説されている。
 言語構造も音韻体系も異なる漢字の受容がいかに困難な作業であったか、現存するものが少ないとはいえ可能な限り当時の史料(考古学史料も含む)や文献が参照されており、その工程が刻々と進んでいく部分に知的好奇心をくすぐられてならない。また参考すべき史料の詳述もされており、隣接分野への視野も広げてくれる。

 本書の特筆すべき点として、この漢字受容の歴史を日本に留めず、西夏文字やベトナムの字喃など漢字を真似た独自の文字を創始した周辺国の事情などにも言及しているところだろう。
 その受容の背景や独自の文字の創始は、日本の場合と比較してどのような相違があるのか、とても興味深く読めた。
 また、補章として日本漢字音と中国原音の関係を探るための基本的な文献資料の紹介と解説がされており、漢字の実質を知るための理解を深めてくれる。

 ただし、古代日本の漢字受容のそれにだけ終始しており、現代における「漢字」への言及など「今」が語られておらず、その点新書らしさがない。
 逆を言えば、内容的には新書らしからぬほど専門的なレベルといえる。

 日本に暮らす上で極めて重要かつ密接なものである日本語。あまりにも身近なものであるからこそ、そこに秘められた歴史を垣間見る中で見えてくるものは、自分たちの祖先が培ってきた文化や精神性であり、また自分たちの子孫に受け継がれていかれるべき未来像なのかもしれない。

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